2013.10.12 小学5/6年生20名を対象に行った放射線ワークショップのメモ

2013.10.12 小学5/6年生20名を対象に行った放射線ワークショップのメモ。)
http://kodomokagaku.com/20131012//

20117月発売から半年で1万台を出荷した画期的なiPhone/iPod線量計
ポケットガイガー(PocketGeiger)を組み立てる放射線ワークショップを長野県塩尻市で行った。
以下は、その時のメモです。

関連書類を全てここに置きました。
子どもたちに放射線の話をする時に、参考になれば幸いです。

■□■

小学生5/6年向け線量計ワークショップ、始まり始まり~。^^)

「君たちは今日、世界にたった20台しかないポケガに改造する。」

掴みは成功だったようです(^^)

透明ケースをYangさんに頂きました。
完成品のポケガType4をわざわざ分解して
しんちゅう板の接着を剥がし
透明ケースにPINフォトダイオードセンサーを入れ替える「改造」のスタート。

動作確認兼ねて部屋の空間線量率を計測。
次に、用意した化学肥料の他、ありとあらゆる岩石を好きに選んで計測する。
強者は5検体くらい計測していました。

やっぱり化学肥料が最高値。
0.14μSv/h

化学肥料は、およそこれで1000ベクレルと告げる。

■□■

次に、おもむろに
10倍の

1万ベクレルの放射性セシウム137を保管する「放射能マーク」付きのケースを取り出す。


「この中にもっとずっと強力な放射性物質が入って、


いません」とケースが空であることを見せて、

何故此処に持ってこなかったのか、理由を説明する。

方眼紙を配る。

「この1万ベクレルの放射性物質とポケガを使って先生は昨日 実験をしました。」
「君たちは将来ノーベル賞を取るかもしれない。」
「今から私の実験の助手の仕事をしてもらいます。」と言う(^^)

横軸に
きょり [cm]

縦軸に
「↑放射線 [μSv/h]」と書くように白板に書く。

縦軸に
20cm2.0
10cm1.0
と入れる。

昨晩計測したデータを白板に書く。

距離 放射線
[cm] [μSv/h]
0cm 2.29
1cm 1.04
2cm 0.59
4cm 0.32
8 cm 0.14
16cm 0.07

小学校5/6年生の生徒さんだけど、
横軸のデータの有る距離の位置に、まず印をつけて、
そこからまっすぐ上に上がって、放射線の値の場所に +印を付けます。

と言うとグラフを書いて行く。
素晴らしい。


プロットした+印の測定値を 定規で結ぶ。

ジェットコースターのような右下がりのグラフの完成。

更に、化学肥料の値を水平線として入れる。

問い「0cmの時の値2.29は、化学肥料の何倍だろうか?」

「約20倍!」

問い 「でも10cm離れれば?

とグラフを読み取って見る。

■□■

次に、3つの金属を取り出す。

ひとつは、鉛。
ひとつは、ステンレス(鉄)、
ひとつは、アルミニウム。

金属の名は伏せて、箱に入れた3種の金属を班(5つある)に廻す。

鉛を片手で持ち上げようとして、「重い!」と言っていた。

問い「さて、どの金属が放射線を一番良く止めてくれるだろうか?順番を付けて下さい。」

班毎に議論させて、順位を決めてもらう。

発表。
金属の種類 A | B | C
A:重い
B:光っている
C:軽い
第1班   1 | 2 | 3
第2班 ・・

「正解は、
先ほど、グラフにしてもらったデータの
4cm 0.32[μSv/h]のときに、
この4cmのすき間にこれらの3種類の金属を入れた時の値を発表します。

A: 0.06 μSv/h
B: 0.12
C: 0.17

(当たった班は歓声が上がる。)


□■□

最後に放射線のお話。
みんなに問う。

「ねえ。みんなさぁ。危険 ってなんだろうね。」
「危険な行為ってどんな行為?どんな時に危険だ。って言われる?」

生徒さん 「はい。机の上に立って踊っている時。」(会場爆笑)
私「そうだよねえ。机の上に立つのは危険だよね。でも何故危険なの?」
生徒さん 「滑って机から落ちるから。」
私「落ちると?」
生徒さん「落ちて頭を床にぶつけて血が出る。」
私「そう。堅い物に体をぶつけて血が出るから危険。」

他には?
(いろいろ出てくる。全て、物理的な運動エネルギーの話。)
私「例えばさ、これから冬になってストーブとかどう?何が危険?」
生徒さん「火傷する!」
私「そうだよね。火傷。」

私「あとさ、昨日のニュース知っている?火事になって10人亡くなった。」
生徒さん「知っている知っている」
私「何故10人もの方が亡くなったの?」
 「そう。有毒ガスだよね。息が出来なくなる。」

何かにぶつかって血が出たり、熱い物に触れて火傷したり、
息が出来なくなって苦しい想いをして危険な思いをする。

でもさあ、放射線の危険は違うんだよ。

例えば、1999年にJCOというところで事故があった。
今日みんなが計測した放射線の1億倍くらいの値、
10シーベルト放射線を浴びた2人の方が事故で亡くなった。
でも、浴びた時には、本人は、痛くも痒くもない。
病院に運ばれた本人は「青い光を見た」と きちんと しゃべることができる。

でも、白血病になり、骨髄移植を受けても、健康に戻れず83日後に亡くなってしまった。

つまり、放射線ってのは、血も出ない、痛くもない、目にも見えない、熱くもない、
でも大量に浴びると死んでしまうことがある。

だから、測定する事が必要になるんだよね。

そして、

おもむろに 自治体も使っているサーベイメータ
日立アロカ TCS-172Bを取り出して 電源を入れる。

ぴっぴっぴっ と。音が出始める。

ここで言う。

「しーーー!」

「この、ぴっぴっていう音があるでしょ。」

「この音は、その時に、このセンサのところに、ガンマ線が当たって通り過ぎる時の音なんだよ。」

会場に静粛がおとずれて、サーベイメータの音だけが鳴り響く。

生徒達の目が真剣そのものになる。

□■□

次に、8/15の諏訪市松本市の空間線量率のグラフが残っている、
地元新聞の記事を見る。

私「この図からさあ、何が判るかなぁ」
生徒さん「大町が一番大きい値だ。」
生徒さん「8/15が異常に高い。」

「そうだね。8/15の値はどう、幾つ?」

生徒さん「0.16μSv/h

私「そうだね。今日の岩石や化学肥料やらを測って一番大きかったのが、0.14だからそれよりも大きいね。これは何だろうね。
8/15って何があった?」

生徒さん「花火!」「花火が中止になった。」「あ。雨だ。雨が降った。」
私「そうだよね。雨が降ったよね。」
「実は先生は、このグラフを見た後に、自分でも次に雨が降った時、
 降り始めて直ぐに 1千万円の機械を使って、測った。
 そうしたら、この放射線の原因は、この物質と同じ仲間だった。」

(箱に入れた、きらきら光る金属ビスマスの結晶を見せる。)

---
この後、水月湖の話題も入れた。日本の放射性炭素14を使った年代モノサシが世界に認められて、世界標準になった。という話。
---
□■□

まとめ。

今日、みんなは、目には見えない身の回りの放射線を、自分で測定することのできる道具を手に入れた。

ぜひ、「雨がふったらどうか。」「家族旅行に行ったら、その旅行先での値はどうか。」「いろんな物に当ててみて、値はどうか?」ぜひ調べてみてください。

以上で終わります。


ーーーーー
このプログラムで、1時間50分コース。
<対象>小学校5/6年、20名(=4人x5Group
<材料>
PocketGeiger Type4 x20
(iPhone, iPad) x 5
方眼紙A4 x20
定規 x5
時計ドライバー x5
ドライヤー x1(両面テープを剥がしやすくする)
<資料>
本日のスケジュール(メニュー表)
実験シート(測定値を書き込む)
アンケート
2013.8.15諏訪、松本の空間線量率新聞記事。
水月湖(C14)の新聞記事と論文。
http://d.hatena.ne.jp/scanner/20131011/1381515651
<スタッフ>
大人:講師他3名
記録:1名

 

資料1

2013.8.15諏訪、松本の空間線量率新聞記事。

f:id:scanner:20220416113658j:plain

資料2

水月湖(C14)の新聞記事。

f:id:scanner:20220416115632j:plain

水月湖

水月湖(C14)の論文はこちら。

Science 投稿論文:

http://www.sciencemag.org/content/338/6105/370.abstract

資料3

本日のスケジュール(メニュー表)

f:id:scanner:20220416115656j:plain

講演スケジュール

資料4

実験シート(測定値を書き込む)

f:id:scanner:20220416115714j:plain

実験シート



~~~

今回の授業で私が一番、興味深いと感じたのは、やはり、「危険とはなんだろう」ということです。

改めて、考えると、人間には、危険を察知する仕組みが様々に備わっている。

そうした身体に備わった危険察知の能力に対して、まったく 微かな気配も残さずに、生命を死に追いやる存在であることを理解させることが重要だと思います。

正確に伝えるには、どうしても、教える側に、生命の知識が必要となります。

DNAのらせん構造が1955年にワトソン・クリックにより発見され、生命の伝承(遺伝)のカラクリが解明される。命のリレーの根幹のメカニズムが、DNAの二重らせん構造にあることが発見される。

ねじれてからみあった 「ハシゴ」。

このハシゴの足を載せる部分が、はずれ、2本の単なる棒となり、

それぞれの棒が、相棒を見つけて、再び、完全なる、ハシゴのコピーをそれぞれが作りDNAは2倍に増殖する。これが完全なるコピーを作ることができる、DNA複製の仕組み。

分裂が盛んな細胞で起きて居る流れの中で、2本の単なる棒となった時、

その時に、放射線によるナイフが襲うと、ひとたまりもない。

DNAの鎖は、離ればなれとなり、かつて隣に誰が居たのかは、分子の海に離ればなれとなり、判らなく成る。これが、突然変位の原因。

細胞分裂が盛んな 幼子に放射線が危険な理由はここにある。

この親から子への命のリレーである、DNAの分子結合をいとも軽々と切ってしまうのが電離放射線という非常にエネルギーの高い「ナイフ」。

 

( 初出:Facebook 2013年 )