(長谷川幸洋)

http://gendai.ismedia.jp/articles/-/4911
長谷川幸洋

[つまり実質的に東電は債務超過であり、破綻している。

 本来、破綻会社であれば、まず役員と従業員、株主、金融機関が損をかぶって負担するのが「株式会社と資本市場の基本ルール」だ。ところが、今回の賠償スキームでは、株主は株式が紙くずになる100%減資を免れ、銀行も融資や保有社債の債権カットを免れた。

 勝俣会長ら代表権のある役員は報酬を全額返上するというが、社員は年収の二割カットにとどまり、高額とうわさされる年金カットも盛り込まれていない。そのつけは結局、電気料金の値上げとなって、国民が払わされるのである。]

[それなら被災者に十分な補償をしながら、かつ株主や銀行にはしっかり負担をしてもらう新しい法的枠組みをつくればいいのだ。そういう枠組みをつくるために、国会と国会議員がいる。国会はオールマイティである。]

[分かっていたが、あえて「銀行は債権放棄を」と訴えてみせた真意はなにか。はっきり言って、パフォーマンスである。国民の間に広がる「これは国民負担じゃないか」という批判に対して「菅政権は銀行もたたきますよ」というポーズを示してみせた。それが一つ。

 もう一つは、菅政権の弱体化を見越して「オレはいま官房長官をやっているが、本当は良識派だよ」と世間に訴えてみせた。あえて自分のポジションを政権から距離を置いておくという政局的思惑である。私はこちらが本当であるとにらんでいる。

 これまでも当コラムで指摘してきたように、菅政権はいまや内部崩壊しつつある。本当の側近と呼べる人間はごく数人しかいない。官房長官の枝野でさえも、重要な局面にさしかかると、菅から微妙に間合いをとっているのである。]

[仮に法案提出にこぎつけたところで、関連法案は早くも「次期国会に先送り」と言われ、実際にスキームを動かすところにこぎつけられるかどうか不透明だ。

 その前に、そもそも与党内でさえ枠組み自体に異論が強く、今国会で可決成立できる見通しが立っていない。経産省上層部でも「これは単なるスケルトン(骨組み)。法案にこぎつけられるかどうか、分からない」という声が出ている。

 むりやり採決に持ち込もうとすれば、造反者が出て政権自体が揺らぎかねない情勢なのだ。本当の正念場はこれからである。]