子どもと妊産婦を守る 菅谷昭・松本市長に聞く


信濃毎日新聞 2011年4月22日(金)13面
チェルノブイリ被災地で医療支援
菅谷昭・松本市長に聞く

「内部被ばく」危険性意識を
子どもと妊産婦を守る
情報公開と検査態勢不可欠

すげのや・あきら
1943年、千曲市生まれ。
医師。専門は甲状腺などの内分泌外科。
信州大学医学部助教授だった1991年からチェルノブイリ原発事故被災地の医療支援活動に従事。
1995年末に信州大学を退官。
翌年から2001年までペラルーシに滞在して活動した。
長野県衛生部長などを経て、2004年から松本市長。

福島原発事故
重大事故を起こした福島第1原発から放射性物質の放出が続き、体内に放射性物質が入って起きる「内部被ばく」への懸念が強まっている。
1986年に旧ソ連で起きたチェルノブイリ原発事故では、内部被ばくが子どもの甲状腺がんなど深刻な被害につながった。
4月26日で同事故から25年。被害はいまだ終息していない。内部被ばくはどんな影響を及ぼすのか。チェルノブイリに近い隣国ベラルーシの医療支援に長く関わってきた、松本市長の菅谷昭さんに聞いた。(磯部康弘)

医師の菅谷さんは、1991年から日本チェルノブイリ連帯基金松本市)の医療支援活動に参加。
ベラルーシにも長期滞在して甲状腺がんの診療にあたった。
「体の外から放射線を受ける外部被ばくについては研究が進み、人体への影響が分かってきてる。だが、内部被ばくについてはよく分かっていない。それだけに非常に厄介で怖い」と話す。

内部被ばくは、放射性物質が皮膚から吸収されたり、呼吸や飲食物を通して体内に入り、肺や消化器から吸収された後、血液によって運ばれ、特定の組織に取り込まれて起きる。
いったん組織に取り込まれると排出されにくく、微量でも体内に留まって放射線を出し続けるため、DNAを損傷してがんを引き起こすなど、人体に深刻な影響を及ぼす恐れがある。

放射線量が低いから、ただちに影響が出るわけではない、というのはあくまで外部被ばくについての話。内部被ばくと混同してはいけない」
と菅谷さん。

特に成長に伴い細胞分裂が活発な子どもや胎児は放射線への感受性が高く、影響を受けやすい。

内部被ばくに特徴的なのは、何年もたってから影響が出てくることだ。
ベラルーシで子どもの甲状腺がんが目立って増え始めたのは、チェルノブイリの事故から4年後の1990年。
9年後の1995年に発症者が最も多くなった。

15歳未満の小児甲状腺がんの発症率は通常100万人に2人と、ごく少ない。
ベラルーシでも、チェルノブイリ原発事故前の1975年から1985年までは7人だけだった。
だが、事故が起きた1986年から1996年までは計508人と急増した。

原発から最も近いゴメリ州では、この11年間に役270人が発症。
発症率は通常の約130倍に達した。
15歳以上の年代でも、甲状腺がんは増えた。

◆◆◆

国際原子力機関IAEA)などの国際機関や被害国で構成する「チェルノブイリ・フォーラム」がまとめた報告書(2005年)では、甲状腺がん以外のがんについては、原発事故と直接の因果関係を認めていない。だが、消化器や呼吸器、泌尿器などのがんも確実に増えているという。

「体内に取り込んでいるのは放射性ヨウ素だけではない。
 セシウムストロンチウムによる第2、第3のがんが
 将来出てくる可能性もある」

と菅谷さん。
放射性ヨウ素甲状腺に取り込まれる一方、セシウムは筋肉に、ストロンチウムは骨に蓄積しやすい。
半減期放射能が半分に減るまでの期間)は、
セシウム137が30年、
ストロンチウム90が29年、
長期に渡って体内で放射線を出し続ける。

ベラルーシでは早産や低出生体重児も増えている。
それらも内部被ばくの影響と考えられるという。

◆◆◆
チェルノブイリを教訓に、福島の原発事故にどう対応し、どう行動すべきか。
菅谷さんは「次代を担う子どもと妊産婦は国を挙げて守らなければいけない」と訴える。
そのためには、内部被ばくの危険性を含め、放出された放射性物質に関するマイナスの情報も、説明を尽くして積極的公開することが必要だと指摘する。
「不安をあおる」と決めつけて情報にふたをするのではなく、定期的に検査を受け、早期に異常をみつけて治療すれば大丈夫だということも併せて伝える。
汚染が強い地域では、国が責任を持って検査態勢を整え、長期に渡って追跡することも不可欠だ。

また菅谷さんは、内部被ばくの危険性を考えれば、子どもや妊産婦に限らず、放射性物質が付着したり、含まれている食品は口にすべきではないと話す。
放射線量が多い地域では、マスクをしたり、肌を露出しない、雨に濡れない、といった対策も重要だという。

福島第1原発からは既に、37万〜63万テラ(テラは1兆)ベクレルもの放射性物質が放出されたと推定されている。
封じ込めにはまだ長い時間がかかりそうだ。
「私たちは放射性物質の汚染の中にいる。放射線の危険にさらされていると意識して行動することを心に決めてほしい」と菅谷さんは語った。