Sv(シーベルト)について

Sv(シーベルト)について (その1)

何故、簡単に放射線の画像を写真に撮れないのか。
という疑問からはじめてみます。


原子力規制委員会のフケタ副委員長が
平成25年度の(原発から北20kmの)南相馬市の基準超え米の原因は、平成25(2013)年8月19日の3号機ガレキ撤去作業による放射性物質の飛散が原因とは考えられない。と言った。

当時、基準越えの原因を探ろうと懸命に解析した農林水産省が撮影した
汚染米放射性物質を可視化した画像を見ていて、
シーベルトという単位のことを考えていました。


「オートラジオグラフィー」という放射性物質の在処を画像にした写真を見ると、「ああこうして、放射線が可視化できたらいいな」と誰もが思います。でも意外とこの写真を撮るには、大変な撮影時間(シャッター時間)がかかる。なんと、1週間以上もの間フィルムを試料と「密着」して「露光」し続けなければいけない。

農林水産省の画像はイメージングプレートといい、銀塩フィルムに較べると感度もダイナミックレンジもずっと優れた撮影システムです。そのため、撮影のための露光時間はもっと少なくて済んでいると思われます。)

私達の普段の写真フィルムの感度についての常識は次の通りだ。
例えば、通常の写真撮影中にカメラの裏フタをうっかり開けてしまい、
太陽の光にフィルムを晒してしまえば、あっという間にフィルムは露光オーバーとなり現像するとフィルムは真っ黒にになる。
(最近はデジカメやスマホになっちゃって、うっかり裏フタを開ける失敗なんてピンと来ないだろうけどね。)

でも、1kgあたり100ベクレル以上も汚染された米を暗室でフィルムの上に載せて撮影しようとしても、「あっという間」ではとても放射性物質は写らない。最低でも1週間以上もの露光を必要とする(と言われている)。

この「フィルムを黒くするために必要となる露出時間」
という感覚から直感的に推定される強度比:
(1) 日光浴と写真フィルムの感光、
(2) 放射性物質による被ばくと写真フィルムの感光、
から、「放射線の被ばくなんて大した事無い」んじゃないかなぁ、、
と感じる。
よね?
・・・
実際に計算をしてみよう。

1999年にJCOで二人の作業員の方が、放射線の被曝事故で亡くなった。
液体状の放射性物質の数量(放射性物質の総量)を規定以上に集めてしまい、臨界が発生して、中性子線が継続的に発生した。作業者の二人はその中性子線を体正面で浴びてしまった。
事故で亡くなった方の総被ばく量は、20シーベルト(Sv)であったと記録されている。

(ここでは、1シーベルト=1グレイと計算をする)
20Sv=20Gy
1Gy=1J/kg (J:ジュール)
20Sv=20Gy=20J/kgなので、
もし、体重が50kgの人であれば体全体で受けたエネルギー量は、
20 (J/kg) x 50kg =1000 J

結論: 放射線であれば、1000ジュール浴びると死ぬ。

(正確にはJCO事故は中性子線なので、GyからSvに20倍の係数がかかる。
 20Sv(中性子線)=1Gy(中性子線)
 よって人は、中性子線を50ジュール浴びると死ぬ。)

・・・

一方、日光浴した場合の受けるエネルギー総量を計算してみよう。
太陽定数を
1分あたり、2Cal/cm^2
1Cal = 4.2J
として、
人の日光浴する時の面積は、
身長x肩幅=150x80=12000 cm^2
と仮定して、
1分あたり、2cal x 4.2 x 12000 = 100800 J
つまり、時間にしてたった 0.6秒で、日光浴であれば、1000ジュールに達する。

恐らく、ここが、放射線をあまり危険に感じない原因であろうと思う。

・・・
もし太陽光線が、放射線だったとした場合、

「(放射線を)0.6秒浴びたら、死ぬ」というのはにわかには信じられないだろう。

日光浴であれば、外で農業をする人で考えれば、生涯で、
60年x200日x8時間x3600秒程度は、
日光を全身で浴びる。それでもどうってことない。
しかし、放射線に関しては、たった0.6秒で、死ぬのだという。

放射線の被ばくなんて大した事無い」んじゃないの?

と誰だって感じる。
よね?
・・・・・

Sv(シーベルト)について (その2)

放射線を浴びて死ぬ。」と聞くと
広島市長崎市に米国によって投下された原子力爆弾で亡くなった方の画像を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。体中が真っ黒に焦げたり、皮膚が剥がれケロイド状になり,体中から血が吹き出て。。というイメージ。

しかし、20シーベルトを浴びて亡くなった、1999年のJCOの事故の記録を読むと驚くべきことが書いてある。
病院に搬入された時に、医師の目には、「どこから見ても重症患者には見えなかった」のだ。
被ばく3日目であっても、
「外見だけでは、一体どこが悪いのだろうとしか思えない。」
「致死量といわれるほど高い線量を浴びたと聞いたのが、とても信じられなかった。」

それが、被ばくした大内さんの担当医となりそれから、83日間にわたり治療に当たった前川医師の感想だった。

・・・
致死量の放射線を浴びた後の、死ぬまでのプロセスは、
最初に、腸から栄養を吸収することができなくなる。
次に、皮膚の再生が止まり、体表面の皮膚が無くなり、血がにじみ出始める。
次に、血小板が失われ血液が凝固しなくなる。
次に、白血球が失われ、病原菌を一切遮断したICUの中でしか生きることができなくなる。

こうしたプロセスを見ると、
人が如何に普段、「再生し続けて生きている」のかが良く判る。

腸の細胞は、ヒダの根本が細胞分裂が最も盛んな場所であり、
そこで産まれた細胞は、ヒダの先端に移動して、やがて剥がれ落ちる。
その成長のサイクルを繰り返している。
腸の細胞が無ければ、食物を食べて栄養を吸収することが出来なくなる。

腸の細胞は、細胞分裂で産まれてから、剥がれ落ちるまで2週間のサイクルで終わる。
だから、「細胞分裂が盛んな場所が、放射線で叩かれて死滅する」と
2週間で、腸からの栄養分の吸収が出来なくなる。

これが、致死量の放射線を浴びた人に起きる最初の顕著な現象だ。

「どこから見ても重症患者には見えなかった」人が、
2週間が経過すると、食物を食べても養分を吸収できなくなる。
・・・・・
Sv(シーベルト)について (その3)

もし太陽光線が、放射線だったとした場合、
「(放射線を)0.6秒浴びたら、死ぬ」というのはにわかには信じられないだろう。
種明かしをすると、

放射線は、飛び交う粒子の持つエネルギーが、
生命の源である染色体の構成要素のDNAの分子結合エネルギーを遙かに超えており、DNAが放射線を浴びると結果として、その分子結合が切断されてしまう。

一方、目で見える太陽の光は、いくら大量に浴びても、可視域の光(赤外も同様に)では、DNAの分子結合が切られる程のエネルギーが無い。

この時に大切なことは、
一粒の光(や放射線)が持つエネルギーであり、それが、DNA分子を切るために最低限必要となるエネルギーに不足していたら、
その低いエネルギーの光の「粒」がいくら、束になって大量に集まって当たっても、DNAの分子結合は切られることはないという点だ。
だから、日光を生涯で100臆秒、浴びようと、死ぬようなことはない。

しかし、放射線は、一粒で、可視光の光の粒の約15万倍のエネルギーを持っている。

具体的には、
620nmの赤の光を2というエネルギーで表すとすると、
310nmの紫外線で、4、
放射性セシウム137が出すガンマ線は、611700という単位のエネルギーだ。
通常飛び出るベータ線の持つエネルギーも、511000という単位だ。

可視光の約2倍のエネルギーを持っている紫外線でさえも、皮膚がんを起こす力を持っていることを考えれば、放射線のエネルギーがケタ違いであることが良く判る。

だから、太陽のエネルギーで換算すれば、たった、「0.6秒」程度であるにも関わらず、放射線を浴びたら、「死ぬ」ということになる。

だから、放射線を甘く見てはいけない。
放射線の被ばくは大した事」で有る。

【追記】

放射線」という言葉でこの話を終えてしまうと誤解が残るかも知れない。

タツの遠赤外線も、目に見える可視光も、紫外線も、胸部レントゲン写真やCTで大量に浴びるエックス線も、放射性セシウムが出すガンマ線も電磁波という名称でひとくくりになる「光」である。

しかし、DNAを切断する力を持っている 危険な放射線は、特別に「電離放射線」という名で呼ばれる。
紫外線、エックス線、ガンマ線は、電離放射線である。
他に、ベータ線中性子線もこの電離放射線に分類される。

・・・・・
関連資料)
1)
25年産米の南相馬市での基準値超過に関する調査結果

http://www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/fukusima/pdf/25kome_h26_01.pdf

(魚拓ed)
http://megalodon.jp/2014-1128-1053-28/www.maff.go.jp/j/kanbo/joho/saigai/fukusima/pdf/25kome_h26_01.pdf

2)
朽ちていった命―被曝治療83日間の記録 (新潮文庫) 文庫 – 2006/9/1
NHK東海村臨界事故」取材班
※1999年JCO事故で無くなった患者を治療した医師の記録ドキュメンタリーです。必読本。

3)
オートラジオグラフィー

森敏先生が原発事故後、報告し続け、写真家森住卓さんも写真展などをしています。
http://moribin.blog114.fc2.com/blog-entry-1306.html
http://www.kinyobi.co.jp/kinyobinews/?tag=%E6%A3%AE%E6%95%8F

オートラジオグラフィー で検索すると試行されたサイトも増えてきました。
http://astroy.web.fc2.com/Nuk/Autoradiography.html
(このサイトは実際に試してみる方には参考になると思います。)

了)