検索kw: 日本刀 マルテンサイト変態
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO89338520V10C15A7000000/
(ライター 服部夏生、日経BP未来研究所 仲森智博)
日経BP社は2015年6月30日、ムック「日本刀 神が宿る武器」
平安期にさかのぼる歴史、驚異的な機能の秘密を探るとともに材料となる玉鋼の選別から鍛え、焼入れ、研ぎ(鍛冶押し)まで、日本刀作製の全工程を、当代随一の刀匠、河内國平氏の作刀作業を豊富な写真とともに開示する。
「
焼入れの際は、刀身を加熱して赤めた後、水に入れて急冷する。こうすることで鋼の組織が安定的なオーステナイト(面心立方格子)からマルテンサイト(体心正方格子)に変わる(マルテンサイト変態)。こうしてできたマルテンサイトは、極めて硬く、よく切れる。しかし、脆い。
だから、必要不可欠な刃の部分にのみ強く焼きを入れ、さらに焼戻しをかけて靭性を出す。これも「よく切れる」のに「折れず曲がらず」という特性をもたらす一つの要因である。
日本刀独特の反りも、この焼入れをルーツとして生まれたものだといわれている。
鋼は、マルテンサイト変態に伴い体積を増す。
このため、刃の側が伸び、全体として反りが生まれる。
」
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https://online.sbcr.jp/2016/09/004201_3.html
臺丸谷 政志
物づくり、工学的視点から見た「日本刀」のスゴさ
「
――焼入れによる「相変態」とは何ですか?
鉄の結晶構造の変化を「鉄の相変態」といいます。焼入れでは、「火造り」(小槌で叩きながら日本刀の形状を打ち出していくこと)によって刀姿がほぼ決められた刀身に、「焼刃土(やきばつち)」が塗られます。刃になる部分には焼刃土を薄く、棟側には1mm程度に厚く焼刃土を塗ります。続いて「火床(ほど)」で800℃程度に刀身を一様に加熱し、「船」と呼ばれる水槽に一気に沈めて、急冷します。このとき、玉鋼の相変態によって反りと刃文が同時に生じます。
図4●冷却速度の違いによる鋼の相変態
図4は、冷却速度の違いによる鋼の相変態です。図面の縦軸は温度(℃)、横軸は鉄鋼中の含有炭素量(%)です。
焼刃土が薄く塗られた刃部は急冷されて、鉄鋼では最も硬い「マルテンサイト」という鋼組織に変態し、焼刃土が厚く塗られた棟側と刀身内部は除冷されて「パーライト」と「フェライト」という、軟らかく延性や靭性が大きい結晶組織になります。したがって、刃の部分は硬くてよく切れ、刀身全体としては柔軟性がある「強靱で折れにくい日本刀」がつくられます。
日本刀の強靭さについてのメカニズムは、拙著『日本刀の科学』(サイエンス・アイ新書)で詳しく解説していますが、
刃側の部分は体積膨張が大きなマルテンサイト、棟側はそれに比べて体積膨張が小さいパーライトに変態する結果、刀身は湾曲変形します。
すなわち、「日本刀の反りは、力学的バランスによって生まれた造形」といえるのです。
」
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https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsms/66/11/66_804/_pdf
日本刀に息づく科学と技術
Science and Technology Surviving in the Japanese Sword
井上 達雄
「材料」(Journal of the Society of Materials Science, Japan), Vol. 66, No. 11, pp. 804-810, Nov. 2017
「
4 焼入れと焼刃土
いよいよ焼入れである.
高炭素の備前伝では 780°C,
低炭素の相州伝では 800°C程度と,いずれも Ac1 変態点 (760°C ) 以上に加熱し,前者では常温から 40°C,後者で は約 80°Cの水に焼入れる.
一般に鋼は急冷するほど硬いマルテンサイトが生じやすい.
水温や冷媒としての特性は後述のように,伝熱特性上重要である.
断熱材である焼刃土は図7に示すように,棟は緩冷のため1mm 近くの厚さにするが,刃先は 0.1-0.2mm と薄く塗る.
」