書籍:山田 正彦:アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった! 2016/8/6

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アメリカも批准できないTPP協定の内容は、こうだった! 単行本(ソフトカバー) – 2016/8/6
山田 正彦 (著)

有権者、必読。わが国は、いじめられっ子・のび太どころかジャイアン太鼓持ち・スネオだという現実
投稿者 ロビン トップ500レビュアーVINE メンバー 投稿日 2016/8/11
 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の危険性について元農水省大臣で酪農経験者の山田さんが書かれたご本。農業新聞などを購読されている方は既知のことが多いのかもしれませんが、堤未果さんの著作などで最低限の知識しか得ていなかった自分には衝撃の内容でした。著者に申し訳ない事にkindle読み放題で読んでしまいましたが、それだけ山田さんが「国民にこの事実を伝えたい」と願っておられるということなのか、と思い、感謝の念を抱きました。微力ですが、情報拡散の一助になればと思い、レヴューさせていただきます。

 国民皆保険制度の危機や医療特区・混合医療解禁、アメリカ農業を蹂躙した悪名高きモンサント社ベトナム戦争で奇形児を生み出した枯葉剤を製造した会社)と遺伝子組み換え食品のことなど、内容の多くは堤未果さんの『(株)貧困大国アメリカ』で書かれていたことと重なっており、本文中でも堤さんの著書に言及しておられます。

 本書で山田さんが警告してくださっていることが本当であれば、安倍政権のアメリカ追従姿勢は売国的なレベルです。「アメリカの傀儡」という言葉が恐ろしいほど何の比喩でもないのです。
 TPP協定は、担当大臣であった甘利さんの収賄疑惑の実態もうやむやなまま今年2月に署名が行われました。テレビ報道では農業・漁業の関税に関する解説が多く、医療や保健、雇用、知的財産権について−言ってしまえば日本国民の生活全般について影響を与える協定であるという認識は広まっていないと思いますし、それどころか、本書によれば国民に実態を知られては大騒ぎになるので、政府は協定の日本語訳を用意するようあえて要請しなかったと言います。山田さんはご自身と仲間でチームを組んで英文から翻訳・分析されたそうです。

目次

第一章 米国ではTPP協定を批准できない、各国の複雑な状況
第二章 日本の農業はTPPでどう変わるか
第三章 TPPで日本の漁業はどう変わるか
第四章 食の安全が脅かされる
第五章 私たちの医療はTPPでどう変わるか
第六章 国有事業と公共調達
第七章 ISD条項で国の主権が損なわれる
第八章 TPPは何のメリットもなく、むしろ雇用を失う
日本国民への提言 「今私たちにできること」

 いくら安倍内閣が酷くてもそこまで国益を無視しないだろう、国民の安定雇用や文化的な最低限度の生活を、わが国の教育や医療という社会的共通資本を、アメリカ投資家の強欲なグローバリズムの前に差しだしたりしないだろう、だってそんなことをしたら日本という国が内部から外資に侵略されて、いつのまにか植民地みたいになってしまうのだから・・と思いたいですが、しかし、原発事故以来露呈された政・官・財・産・学・報の癒着と隠蔽・無責任体質のあり様を目の当たりにした今、内田樹さんじゃありませんけれど「うちの国のエスタブリッシュメントは、悪人だけど有能ではあると思ってたのに、大事に秘密守れば長期的に自分たちの私腹を肥やせる金の卵産む鳥を殺さないだけの能もなかった。高学歴で頭の回転速いだけで、有能でさえなかった」と思わざるを得ませんので、本気で目先のことや、政権の維持、または大金を献金してくれる上層の金持ちのことしか考えておらず、そんなことを続けたら国が滅ぶということが理解できないのではないかという懸念がぬぐいきれません。

 広島にオバマ大統領が訪問したことも、日米友好と思ってつい喜んでしまいましたが、考えてみれば核爆弾落とされて、落とされた方が落とした方の曖昧な謝罪で涙を流して喜ぶって、そこには完全に上下関係というか主従関係があるなと思いますし、オバマはブッシュより遥かにましとはいえ自国で核兵器を1兆ドルかけて刷新してるそうですし、あれも「オトモダチ作戦」の一環としてシビアに見るべきだったと今は思います。堤未果さんが薦めておられたので、わたしも参考にしているのですが、アメリカの内情が分かる『デモクラシー・ナウ!』という独立放送局のHPを覗くと、日本の報道がいかに無批判にしかも全体の一部しか伝えていないか痛感できます。
 
 本書読後、内閣官房のHPにある「TPP協定、Q&A」という資料を一読しましたが、Q1からして韓国とアメリカの結んでいる米韓FTAについて、あたかもいいことしか起きていないかのように書いてあり、要は「ほら、中国や韓国もFTAという貿易協定を結んでいるんですよ!日本も世界経済の波に乗り遅れないようにしなくちゃですよね!」という、日本人の「他の人もやっていると言われると弱い」という弱点をうまく突いた「霞が関作文」のように感じました。
 韓国では、政府が当初「米韓FTAにはISD条項(投資家の利益を保護するための悪名高い条項)があるが、韓国は先進国なので米国からも他国からも訴訟を起こされることはない」と国民に説明していたのが、すぐに米国ファンドのローンスター社というところに銀行株式売却に関して投資家に不利益があったとして5500億の損害賠償を求められ、国民が激怒したそうです。内閣官房のQ&Aでも、「ISDは日本企業が他国で安心して働けるように存在するもので、日本がISD訴訟を起こされる心配はありません」と説明しており、韓国政府の態度そのままですが、韓国の被害例を考えると、笑えません。

 国連人権委員会の理事のアルフレッド・デ・サヤス氏は、今年2月「12カ国はTPPに署名も批准もするな」という書簡を出したほど危険な協定、あらゆるものに値段を付ける自由主義・資本主義の使徒であり金銭崇拝者−「市場」とみなした自国の低所得層はおろか世界中の庶民を苦しめてきたアメリカ投資家によるエコノミック・クルセイドとさえ見えるこの協定、国民生活に多大な影響を与える協定を、国民にほとんど説明しないまま、政府は批准しようとしています。それにしても政府はどうしてここまでアメリカのスネオなのでしょうか?ベトナムやマレーシアがちゃんとタフな交渉をして国益を守っているのに、わが国にそれができないというのは何なのでしょう?ここまでやることで安倍政権が受け取る見返りは何なのでしょうか、憲法改定に必要な政権の安定なのでしょうか?
 危惧が杞憂に終わればそれが一番いいのですが、やはり原発事故の後では、注意不足によって受けるリスクよりも注意過剰によって受けるリスクのほうが少ないという言葉もありますし、用心に越したことはない、一人でも多くの国民が勉強し情報を拡散・共有し、抗議すべきはすべきと思います。
 本書でも本書以外でも、とにかく有権者のみなさんは(若者も読んでくれればいいですが多分無理なので。負けず嫌いの若者などはぜひ読んで周囲の大人に説教する位のアクションガンガンして欲しいですが)政府広報を鵜呑みにせずぜひTPP関連書を一読されるべきです。