NHKスペシャル 2014.12.


北川 高嗣
Nスペを踏まえて、何がチェルノブイリと違ったのか?
【写真】「2011年3月16日、白煙を吐き続ける3号機」

ずいぶんと、状況がクリアになった。
チェルノブイリは1基で、フクシマは四基が同時進行である。
結果、フクシマでは、目立つもの、手のつけられるところから、先にやっつけるというような状況になった。
爆発は、四基ともしているが、それぞれが全く違う爆発だ。
どの原子炉も健全性を保っていない。特に1−3号機は、どれも最後の砦であったはずの格納容器が損壊している。
つまり、原子力発電所の事故規模は、環境中に漏洩した放射能物質の量によって測られるが、今回は、おそらく、レベル7が確実に3つ(4つ)同時進行したことになる。これは、3基ともメルトダウンし、格納容器が壊れているのであるから当然の最高レベル判断となるだろう。
結局今回分かったことは、政府サイドと、東電現場サイドで、全く異なった意思決定が行われたため、分かり易い四号機の処理に、リソースが割かれてしまい、 極めて重篤な状況になった3号機から、放射能物質が漏れたい放題漏れていることが、「わからなかった」ということに尽きる。
結局、何が起こっているか分からず、「何故か」3号機内部の圧力が設計基準を超えてしまうため、ベントを繰返しているうちに、そのワケのワカラナイベン ト、5回目で、決定的な事象(ヨウ素を中心とした、膨大な核物質の大量環境放出)が起こってしまった、ということになる。
これは、今まで、謎とされてきた部分である。
ヨウ素がそんなに出ているはずはない。しかし、途方もなく出ている証拠がいくつかある。ここは、全ての事故調で、全くの盲点となった。
二号機のベントが、全ての関係者が最大漏洩源と思っており、全てがそのように処理されてきた。山下俊一などは、2号機のベントが、フィルターベントだと思って、ヨウ素剤配布を中止決定した。
実際は、ドライベントとなっており、1000倍読み違えていたことに加え、実際のヨウ素大量排出は、3号機の5回目のベント以降(16日夕方以降)に起こったのである。
ヨウ素に関しては、半減期が短いため、その後、行われたあらゆる計測は、意味がない。早野龍五らのWBCも、時期を完全に逸している。唯一福島県のモニタリングポストは、その膨大を捉えていたはずだが、4つの事故調が終わるまで陰蔽され、その後破棄された。
この陰蔽に陰蔽を重ねた、初期大量放出が、今回確定的に明らかにされた。
今までは、バラバラの傍証はあったものの、そのようなことが起こるはずはない、という合理性に防護され、その大量放出は、闇に葬られていたのである。
そのことをNスペは、四年に渡り、5回の特集と専門家グループ、東電現場をひっくるめた精査により、特に今回、初めて明らかにされた吉田調書の証言ともつき合わせ、そのワケを解明した。
さて、このような、「ワケのワカラナイ」事象は、いくつ起こっているのだろう。3号機のあの黒煙大爆発は何だったのか?なぜ、稼働していないはずの四号機 の爆発が、3号機よりも建て屋に地階から大きな損傷(Ground Up)を与えていたのか。(配管等も、木っ端微塵である。)
1億年に一回しか壊れないはずの2号機の格納容器は、なぜ、いつ、壊れたのか?
1億年に一回しか壊れないはずの3号機の格納容器は、どこが壊れているのかすら、定かでない。壊れているということしか、ワカラナイのだ。
1億年に一回しか壊れないはずの1号機の格納容器は、なぜ壊れたのか。あ、これは、緊急時冷却装置が外されており、ストレートにメルトダウンスルーしたからです。
これらは、どの一つも、現場の専門家は、予測出来なかったし、理由を説明することが出来ない。
今回の、29/30の原子炉への注入水が、届いていない、など、知りえていたら、彼らはきっとその場に留まってはいなかったのではないか。
知らなかったから、何とかその場で、作業を続けたのだ。
四号機の燃料プールの冷却水の存在は、今回もメインテーマとなっていた。
本来なら、冷却水が、そこにあろうはずもないのであり、アメリカはそのように判断した。しかし、原子炉ウェルの水が、たまたま抜かれておらず、なおかつ、 ウェルと燃料プールとの仕切り版が、たまたま損傷して、燃料プールに流れ込み、冷却水として満たされたのだった。さすがにこれには、かの菅直人氏も「神の ご加護があった」とした。
そして「そのこと」(四号機プールに水があろうはずのないこと)が、今回の「3号機の大量漏洩」の原因となったのである。
電源回復に訪れたチームが足止めをくらい作業が何日も遅れた、即ち、
菅直人のジャストアイデア、ヘリコプターで燃料プールに水を落とす、
石原慎太郎のジャストアイデア、特別消防隊で水をかける。
この2つで、電源回復作業は、大幅に遅れその間、水が入っているはずの3号機の「5回のベント」で、溜まりに溜まった放射能物質を留めたはずの配管設備か ら、濃縮された放射能物質が、一気に爆発的に環境中に吹き出し(これが黄色のスパイクで、全体の10%にもあたる)以降、ほぼドライな状態で環境中に核燃 料が溶け落ちた放射能物質が吐き出され続け、今まで見落としていた、全体の実に75%にあたる放射能物質を環境中に吐き出したのだ。
つまりこういうことだ。
水が(偶然)入っていた、四号機燃料プールの手当をしている最中に、
水が入っていたはずの3号機の原子炉は、その実際に届いていた30分の一の水によって、燃料棒被覆管のジルコニウムと反応し高熱化し、被覆管は破れ、メル トダウンを加速していた。それを、何度もベントしているうちに、遂に飽和状態となり、一気に吸着用配管内部に溜まりに溜まった放射能物質を環境中に吹き出 し、その後漏れ放題に、漏れ続けた。(これが、3号機)
その間、菅直人提案のヘリコプターショーに、世界中が唖然としていた。
これは、だれが、良いとか悪いとかいう問題では全く無い。
この事実が判明、確定し、NHKのゴールデンで流されるまでに、3年と9ヶ月がかかった。菅直人だろうと、東京電力だろうと、アメリカのNCRだろうと、この事実は、全く知り得なかった、想像すらつかなかった。
原子力発電所の、過酷事故とは、本質的に、こういうものなのだ。
どこで何が起こっているのか、その時点、その場では、全くワカラナイ。
高濃度放射能が漏れれば、決死隊といえども、近づくことすら出来ないのだ。
同時多発複数原子炉に渡る過酷事故は、単発の事故とは全く違った次元のとんでもないリスクを発生させる。
【写真】「2011年3月16日白煙を吐き続ける3号機」
これ(白煙)が、溶け落ち放題、漏れ放題の放射能物質であることを、誰も知り得なかった。3年9ヶ月の間。だって、全ての専門家は、30トン/時間の冷却水が、3号機原子炉に、注入されていると信じ、誰一人疑っていなかったののだから。
だから、ここ(3号機)を後回しにし、水が十分満たされている四号機燃料プールに、ヘリコプターやら、東京都特別消防隊やらで、水をかけようとしていたのだ。
その間電源回復は遅れ、3号機の溶融核燃料は、漏洩し放題な状態となった。

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