食品の放射性セシウム基準値、科学的根拠に基づき見直しを

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http://sankei.jp.msn.com/life/news/140526/trd14052611100006-n1.htm

食品の放射性セシウム基準値、科学的根拠に基づき見直しを
2014.5.26 11:10 (1/3ページ)

サンマに含まれる放射性セシウムを検査する福島県漁協の職員。1検査につき20匹のサンマをさばく必要があり、検査には約2時間かかる=福島県いわき市
 東京電力福島第1原発事故を受け、平成24年4月に設定された食品に含まれる放射性セシウムの基準値。消費者の「安心」のため、それまでの暫定基 準より厳しい数値とした。しかし、欧米の基準の10分の1以下と厳しく、海外なら問題なく食べられる食品も廃棄せざるを得ないのが現状だ。事故から3年が 過ぎ、「科学的根拠に基づいて見直すべきだ」と専門家は指摘する。(平沢裕子)

◆続く出荷自粛・制限
  日本の基準値は、1キロ当たり、飲料水10ベクレル▽牛乳50ベクレル▽一般食品100ベクレル▽乳児用50ベクレル。これに対し、国際的な食品規格を決 める「コーデックス」は一般食品・乳児用とも1千ベクレル、EU(欧州連合)は、飲料水と牛乳・乳製品1千ベクレル▽一般食品1250ベクレル▽乳児用 400ベクレル−で、米国は全ての食品で1200ベクレル。
 日本もコーデックスなども食品から受ける被曝(ひばく)線量を年間1ミリシー ベルトに設定しているのは同じだが、食品の汚染割合については、海外10%、日本50%と、日本はより厳しい数値となっている。ただ、カロリーベースの食 料自給率が39%で約6割を輸入食品に頼る日本で、流通する半分の食品が汚染されているとの考えに、24年2月開催の文部科学省放射線審議会で「実際に 比べ、汚染割合が大きい」と指摘されていた。

厳しい基準の影響を最も受けるのは国内で生産される農水産物だ。例えば、昨年、江戸川のウナギから1キロ当たり140ベクレルの放射性セシウムが検 出されたことで、東京・千葉・埼玉の1都2県は同水域のウナギの出荷自粛を要請。140ベクレルは欧米の基準値ではクリアする数値だ。自粛解除には基準値 の半分の50ベクレル以下の状況が安定して続くことが条件。これまでの検査では50ベクレル前後が続いているため解除に至らず、今も漁ができない状況が続 いている。同様に福島沖などでも水産物の出荷制限が続く。
◆輸入ジャムも違反
 海外か らの輸入食品も基準値を超えると輸入できない。厚生労働省によると、24年4月の検査でオーストリアのブルーベリージャムから1キロ当たり140〜220 ベクレルが検出され、廃棄処分となっている。暫定基準値や原発事故以前の輸入品に適用されていた基準値(同370ベクレル)なら問題なかった数値で、海外 なら廃棄されない食品だ。
 現在、日本で流通している食品から受ける放射線量はどれぐらいなのか。厚労省が昨年2〜3月、市販されている食 品を購入し、食品の放射性セシウムから受ける年間放射線量を推計したところ、平均的な食事では年間0.0008〜0.0071ミリシーベルト。多い場合で も基準値の設定根拠となった年間上限線量1ミリシーベルトの1%以下で、食品中に自然に含まれる放射性カリウムからの線量(年間約0.2ミリシーベルト) に比べても小さいことが分かっている。

食品リスクの経済分析を専門とする近畿大学農学部の有路昌彦准教授は「内閣府食品安全委員会のリスク評価では『暫定基準値でも十分安全は確保されている』とされ、現在の基準値が、より安全性を担保しているわけではない」と指摘。
  そのうえで、「『安心対策』を重視した基準が、結果として被災地復興の阻害要因にもなっている。食品の管理はリスクの評価に基づく科学的な合理性を持って 行うことが必要。市場に出回っている食品の汚染が極めて少ないことが調査で判明しており、科学的根拠に基づき、見直す段階ではないか」と話している。


基準値は行政上の目安 「超=危険」ではない

 東京電力福島第1原発事故直後に設けられた放射性セシウムの暫定基準値は、1キロ当たり、飲料水・牛乳・乳製品200ベクレル▽一般食品500ベクレル。これは、食品に含まれる放射性セシウムからの被曝線量の上限を5ミリシーベルトとして設定したものだ。
 基準値は行政が対策を始めるための目安。基準値を超えた食品は食品衛生法に違反しているため、回収・廃棄されるが、基準値超の食品が必ずしも危険なわけではない。