宮沢孝幸 中川草 新型コロナで知っておきたいこと

新型コロナで知っておきたいこと ウイルス・ゲノム学者に聞く

  • 2020年05月01日

 

https://hc.nikkan-gendai.com/articles/272230

 

宮沢孝幸准教授@京都大学ウイルス・再生医科学研究所

中川草講師@東海大学医学部

 

{感染メカニズム、ACE2とタンパク質分解酵素の働き}

中川「

新型コロナウイルスがヒトに感染するには、ヒトの細胞の表面に存在するタンパク質(ACE2受容体)にウイルスのスパイクタンパク質(Sタンパク質)が結合した後、ウイルス外膜と細胞膜の融合を起こす必要があります。その際に、新型コロナウイルスのSタンパク質がヒトの細胞のタンパク質分解酵素で切断されなければなりません。このSタンパク質について、新型コロナウイルスはSARSウイルスと比較して、ヒトに感染し、流行する上で有利とみられるような特徴をいくつか持っています。

 

{変異速度はSARS、MERSと比較して、ほぼ同じ

 

中川

新型コロナウイルスの変異が蓄積する速度は、その他のコロナウイルスと同じで、特に速くはありません。

 

中川

RNAウイルスは塩基配列が変わりやすく、変異が蓄積する速度はヒトの核ゲノムのDNAと比べて100万倍速いといわれています。一方で、RNAウイルスでもコロナウイルスは校正修復機構があり、組み換えで変異が戻る現象もあることから、一般的なRNAウイルスに比べると変異しにくいと考えられます。

 

中川

英国エディンバラ大学の研究者らの報告では、新型コロナウイルスの進化速度は、SARS、MERSと比較して、ほぼ同じで新型コロナウイルスのRNAゲノムに1年間で蓄積される塩基変異は3万個の塩基のうち24個程度

 

{変異と病原性の強度}

宮沢「必ずしも変異を繰り返せば病原性が強くなるのではありません。逆に弱くなるのが一般的です。ウイルスは宿主がいなければ生きられませんから、宿主に嫌われないよう変異しているのです。変異して強い病原性を持つウイルスは取り付く宿主を失って短期間で勢いを失います。病原性が弱いウイルスと共存する場合は、弱いウイルスが優位になることが多いのです。

 

中川「

現在では論文の著者らもL型が「強毒化している」との表現は誤りだったと認め、論文は修正されました。

 

{再感染か隠れていたのか?}

宮沢「実際、咽頭で消えた新型コロナウイルスが腸管で見つかったケースが多数報告されています。そもそも動物のコロナウイルスは持続感染しやすく、体内から完全にウイルスが消えないものが多いのです。

 

{感染させるためのウィルス量について}

宮沢「私の感覚では一度に1万個以上のウイルスを含む飛沫を直接浴びるか、飛沫が出た直後に手で触り、口や鼻の奥に直接突っ込まない限り感染は難しいと思っています。ウイルスは非常に弱く感染可能な細胞に取り付かなければ次々と死んでしまうからです。私たちが感染実験で苦労するのは十分量のウイルスを集めることなのです。

 

{手洗いの目安と根拠}

宮沢「私は、手洗いは水で10秒、15秒洗うだけでも有効だと思います。多少洗い残しがあってもその時点ではヒトに感染できるだけのウイルスの個数は残っていないと考えるからです。

(了)