福島第一原子力発電所の4号機について

福島第一原子力発電所の4号機について

私も理学系で学んだ設計者のはしくれなので次のことくらいはおよそ推測できる。

(長いので留意^^)


■基礎知識
1)原子力発電が「平和利用」と言っている根拠は、臨界の制御技術。
2)臨界とは、放射性物質の核崩壊で自動的に物理現象として放出される中性子の密度が一定密度以上となり、加速度的に核崩壊が進む現象。
3)中性子を吸収する物質を、放射性物質の間に出し入れすることで、臨界を制御する。
4)核燃料は放射性物質からなり、核崩壊は自動的に進む。そのため臨界以前の現象として崩壊熱が発生する。
5)核燃料から放出される崩壊熱を除去しないと、温度が上がり、核燃料をつつむ容器が溶ける温度まで上がると、燃料だけが、液体状態となり、一カ所に集合する。
6)集合すると、核燃料の密度が上がり、中性子密度が上がり、臨界になる可能性がある。
 1999年9月に起きた東海村JCO臨界事故で作業員が2名死亡した事件は、この臨界状態を「QCサークル活動の延長で」作り出してしまった。(*1)


■4号機の設計ミス
・4号機の、使用済み核燃料は、原子力発電所建物の中にある。
・4号機の使用済み燃料は、格納容器に入っている核燃料よりも2倍の量が有る。
・その2倍の量の核燃料が、建物の上空(地上3階?)にある。
という設計だ。
http://d.hatena.ne.jp/scanner/20120414/1334386690
チェルノブイリの事故の時、ロシアの技術をバカにした後、「日本の原子力発電所の設計技術は、何重にも守られている。」と自慢していた。
その話は、
(1)核燃料の容器(熱せされた加熱した状態で水に触れると水素を出すジルコニウムだ)と、
(2)核反応炉と、
(3)格納容器と、
(4)建物、
という意味で4重だったらしい。
この4重防護を全て突破したのが、2011.3.15だ。
でも、使用済み核燃料が、同じ原子力発電所の建物の大気圧のプールに入れてあるってことは、たぶん、公然の秘密だったのだろう、少なくとも私は全く知らなかった。
こっちは、(プールの水を1重としてオマケしてあげたとしても、)3重だったってわけだ。
水が干上がったら、どうなるか。上記の基礎知識の通りだ。


■設計者と許認可組織
ふつう、設計者は、自分が設計した商品を使うユーザーに危害が加わらないように、材料力学の勉強をし、物性工学の勉強をし、図面を引く。原子力発電所の設計であれば、核物理学や、熱力学、流体力学、などあらゆる学問を総動員して1本の図面を引くことだろう。
でも、プールをあそこに置くという設計は頂けない。
GEの設計者がアレをみれば、CRAZY と言うだろう。
メーカーの設計者は、新人君の図面でも、それを間違っていないか、チェックする大先輩が居る。
検図と言う。
検図した設計者は、図面を引いた設計者と共同責任を負う。
日立製作所東芝の設計者は、そうやっているハズだ。
日本の場合、更にその上に、
原子力安全のための組織がある。
このプールの設計を許した責任体系をまず明らかにすべきだと私は思う。
なぜなら、基本設計が間違っているからだ。
議論の余地もないアホな設計だ。


NASAの品質設計の考え方
では、ストレステストってのは、なんだろうか。
言葉から連想されるのは、アポロ11号の時の、安全率だ。
例えば、材料力学の実験から、ロケットに使われる材料の強度が、
応力60kg/mm^2で破断するピアノ線材料
だったとする。
何本ものピアノ線を引っ張って破断する実験を繰り返し行い、
破断応力平均値:60.0kg/m^2
標準偏差が:±6kg/mm^2
だったとする。
コレにし対して、実際にロケットを打ち上げる時に、
そのピアノ線にかかる実際の応力が、10kg/mm^2だったとする。
打ち上げる際の気象条件や、加速度、液体燃料の吹き出しのバラツキのうちの最大値の時の加速度から、ピアノ線にかかる応力も考慮したバラツキ予測が、
10kg±2kg/m^2だったとする。
この時に、
(最近放射能の測定値でも良くでてくる)
標準偏差 σ(しぐま)
の考え方が使われる。
たとえば、標準偏差を3倍した中に、集団の99.7%が入る。
よって、3σの外に入る確率は、3/1000だ。(*2)
材料の強度の−3σと、
60−3*10=30kg/m^2
実際に使う際の強度の+3σ
10+3*2=16kg/mm^2
が重なった時の、その事象が発生する確率は、
(3/1000)^2となる。
よって、9/百万だから、約1/十万となる。
安全率という言い方をすると、9が5ケ並ぶ安全率だ。
99.999%
NASAの品質管理基準は、9ナインと言われていた。
更に、4ケタってことは、材料と応力に2ケタづつ振り分けて、
設計したってことだろう、とそのくらいのことは推定できる。
で、ストレステストってのは、
設計段階では、例えば、使用状態を+3σとしておいたところを、更に+6σくらいまで応力を掛けてみる、ってことだ。
60kg/mm^2まで耐えられる材料に対して、
ホントは、10kg/mm^2で使うんだけど、
+3σでも10+3*2=16kg/mm^2なんだけど、
更に+3σして、
22kg/mm^2まで応力かけて引っ張って、どうか。
って実験をする。
これが、ストレステストの語源だろうと推定できる。
応力をかけてみる、ってわけ。


■結論にならない結語
で、
4号機プールの設計ってのは、ストレステスト以前の問題なわけだ、
1)材料力学などの学問体系による検証
以前に、「基本設計がおかしい」
その4号機のプールで、水が干上がったらいつでも崩壊熱で加熱をしようと準備している使用済み核燃料棒が、ご本尊の4号機の燃料の倍の量で待機している。
しかもそのプールは建物がふっとんだので、大気に晒されている。
この設計をした設計者、
この設計を許可した許認可組織、
その全貌をまず明らかにしないうちに、
ストレステストだなんだと言うのはちゃんちゃら、おかしい。
上記状況に言及せずに、政治家が安全を許可できるという言葉の信頼性を疑う。

以上です。


*1)1999年9月に起きた東海村JCO臨界事故
現場の作業員2名の死亡という事態に対して、管理者である、第1種放射線取扱主任が罰せられたかどうかを私は知らない。
なくなられた方々は、熱心で優秀な会社員だったはずだ。
一生懸命、作業効率を上げるための品質向上活動、いわゆるQCサークル活動を進めて、あの作業手順になった。
問題は、あの標準作業書にハンコを押した第1種放射線取扱主任だ。彼が罰せられたかどうかを私は知らない。

*2)3σ
じつは、この(サンシグマ)の話は、誰でも知っている 偏差値(へんさち)で言うと判りやすい。
貴方は、中学、高校時代に、自分の偏差値を知らされただろう。
じつは、あれは、
50点:平均点
60点:+1σ
70点:+2σ
80点:+3σ
だ。
あなたは、自分の周りで、偏差値80点を取った人を知らないだろう。それもそのはずだ、3人/1000人の確率で、
80点以上を取った人と、30点以下を取った人が存在する。

残りの、997人は、31〜79点だったわけだ。

初出:2012.4.15 facebook
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